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2018.03.01

劇場から広がる国際交流

人口が4000人に満たない鹿野町は、鳥の劇場の活動拠点となったことで、世界各国から演劇人や演劇ファンが訪れる国際的な舞台芸術のまちへと表情を変えつつあります。地域住民との交流も生まれ、劇場の活動から国際交流の輪が広がっています。

「自分が生まれ育った町に、それも小さな町に、大勢の外国人がやってくることに抵抗はなかったのですか」と年配の地元の人に聞いてみたことがあります。返ってきた答えは、意外にも「慣れているから、気にならない」というものでした。

鹿野町には、鳥の劇場が誕生する以前から、京都外国語大学のセミナーハウスとして利用されている鹿野荘があり、滞在する外国人留学生を受け入れてきたことが理由のようです。

そんな環境の中で演劇活動を始めたことは、鳥の劇場にとって幸運だったといえます。

2008年から毎年開催し、2017年に10周年を迎えた「鳥の演劇祭」には、2009年から海外の劇団を招聘しています。

アジア、アメリカ、ヨーロッパなど、世界中から訪れる才能あふれる演劇人やアーティストたちは、鹿野町周辺に滞在します。彼らが立つ舞台は、鳥の劇場内だけでなく、町内各所に特設され、サポートする地元のボランティアや、観劇に訪れる人々と自然な交流が生まれていきます。

演劇祭を訪れる外国人は、出演者だけではありません。回を重ねるごとに、海外からやってくる演劇ファンの数は増え、演劇祭と同時期に開催されている町内の空き家や空き店舗を使った「週末だけのまちのみせ」にもプログラムの合間に町を散策する外国人の姿が目立ちます。言葉が通じない相手に、満面の笑みと身ぶり手ぶりで話しかける地元住民の様子も珍しくありません。

また、演劇祭期間中の毎週末、その週に上演を行ったカンパニーのメンバーと観客、地元の人を招いたパーティーが開かれ、毎回大いに盛り上がります。

海外のカンパニーの招聘だけでなく、海外のアーティストが協働して演劇作品をつくり上げる活動も行われています。

2010年に上演された「およそ七〇年前、鳥取でも戦争があった。戦争を知らないわたしは、その記憶をわたしの血肉にできるだろうか。」は、戦争をテーマにした芝居と語りによる作品です。「無名の一個人が戦争という巨大な暴力に虐げられる姿がある一方で、私たちが国としてやってきたこともあります。こうした視点を劇に取り込み、芝居を発展させたい」と、代表の中島諒人さんは、韓国の劇団ティダの俳優キム・スンジュンさんを招き、共演が実現しました。

2014年のクリスマスに特別上演された「クルミわり人形とねずみの王さま」は、フィンランドの人形劇作家との協働で制作されました。

ヨーロッパでは、12月になると「くるみ割り人形」や「ヘンゼルとグレーテル」が上演され、親子でオペラハウスに鑑賞に出かける習慣があるといいます。鳥取でも同じことができないかと考えた中島さんが人形劇作家のイイダ・ヴァンタヤさんをフィンランドから招き、滞在制作しました。彼女の制作した人形やお面を使った、人、人形、影絵を組み合わせた物語は、連日大好評でした。

さらに、鳥の劇場が続けているアウトリーチ活動で出会った学校とのつながりから生まれている国際文化交流事業もあります。

劇場の活動に参加する海外のアーティストたちが、鳥の演劇祭の期間中に、子ども対象のワークショップを開いています。

韓国の劇団ティダの本拠地である江原道華川郡を鳥取の高校生有志が訪ね、1週間ほど滞在して、ティダがワークショップを行っている韓国の中高生と交流し、演劇キャンプを行いました。

演劇やアートを軸に、鳥の劇場が展開するさまざまな活動が、鹿野町の地元住民や鳥取の若者、子どもたちと世界を結び、人や芸術との新しい出会いが次々に生まれています。

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