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2018.04.24

新作公演「三文オペラ」観劇リポート

地域の音楽家たちも参加した鳥の劇場新作公演、ブレヒトの代表作「三文オペラ」の観劇レポートをお送りします。

2月も下旬になり、それまでの極寒を思えば少し暖かくなったとはいえ、鳥取市市街地から西へ車で約20分の鹿野町につながる峠の道には、まだ雪が残っていました。

2017年度を締めくくる鳥の劇場新作公演は、ブレヒトの代表作「三文オペラ」です。

チラシには、「今の世の中、経済の格差は広がるばかりだし、大企業や政治家もインチキばっかりって感じじゃないですか。」「あぁ、そうですよねえ。」「でしょ。で、そういう世の中のことを笑い飛ばしつつ考えるようなお芝居をやるんですよ。」というブレーズがありました。

ブレヒトがこの作品を書いた1928年のドイツが、今の日本の状況に似ている、それを芝居を観て笑い飛ばしながら考えようというのですから、急にどうしても観たくなりました。

2017年度の活動テーマは「豊かさって金のことか?それだけじゃない?じゃあもう一度考えよう!豊かさってなんだ?」。(ちなみに2018年度の活動テーマは、「100年先を考えよう、100年前を思い出そう。よき思いが未来を作る。」だそうです)

午後2時の開演を前に、劇場入り口のフォワイエには、平日の金曜日の午後だというのに、たくさんの観客が開演時間までを楽しそうに過ごしています。中年以上の、そして女性の比率が少し高い。ご夫婦での来場もたくさんいらっしゃいました。

「お待たせしました、ただいまから会場へご案内します」

鳥の劇場を主宰する中島諒人さん自身が案内役を務めます。膝掛け毛布を片手に席への誘導も。中島さんは、ここへ訪れる人たちととても近いところにいるのです。

さて、舞台。「三文オペラ」の舞台設定は、どこにでもありそうな銀行の窓口。カウンターの前には6人の演奏家たちによる生演奏。ドイツのブレーメンを拠点に活動する木管トリオ「アンサンブル・ココペリ」に地元鳥取の演奏家3人が加わった編成。海外からの演奏家を招き、しかも生演奏とはなんと贅沢。

演奏と歌に乗せて、大悪党ドスのメッキース、乞食商会の社長夫妻とその娘、そして警視総監らが各々の欲望をぶつけ合う……。笑えるドタバタ音楽劇です。

台詞の多くは歌ですから、慣れるまでは少し戸惑いましたが、だんだん物語の世界に入ってくと、この音楽により面白さが増幅されます。休憩の10分を挟んで、約2時間。しかし、よくこれだけ台詞を歌でできるものだと、びっくりするというか感心してしまいました。

原作は、ヒトラー台頭前のドイツで、格差の拡大や権力の不正を強烈に皮肉り笑い飛ばした作品ですが、格差が広がり改ざんや隠蔽など権力の振る舞いが目に余る今の日本の状況を皮肉っているようでした。

休憩中に近くの席の人に声をかけてみました。

「鳥取の方ですか?」

「ええ、市内から。一緒に音楽をやっている仲間で出ているので。初めて、慣れない演劇なので難しいけど、おもしろい」

その隣の女性は、「私は、地元鹿野町からです。鳥の劇場へは今回が2度目。地元のコーラスサークルで活動しています。役者さんたちの歌声はコーラスとはずいぶん違うなあと」少々戸惑い気味でした。

「三文オペラ」は、音楽、そして生演奏が大きな特徴。二人の話では、今回の舞台には地元の音楽指導者の方が大きくかかわっていて、そういった音楽のつながりから鳥の劇場に足を運んでいる人もたくさんいるそうです。

地域の人々と海外からのプロフェッショナルが一緒に舞台に上がることで、地域の人たちは元気づけられ、また劇場も地域の人々に支えられているのだなと思います。

演目の魅力もさることながら、鳥取に住む人たちが自然に鳥の劇場に足を運びたくなるような、工夫や魅力がそこにあるように感じました。(2018年2月23日・記)

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