演出家からの言葉

TBTBのオフブロードウェイでの最新作『BRECHT ON BRECHT 音楽劇 ブレヒト、「第15回 鳥の演劇祭」で上映できること、そして鳥取の大切な友人や仲間たちにお届けすることができることを大変光栄に思います。

このレビュー形式の演目を初めて上演したのは、20年前の2002年春―9.11事件の8カ月後のことでした。あの時、ブレヒトの言葉は時を越えて、私たちが整理しようとしていた全てのことと共鳴しました。私たちは、ブレヒトが第二次世界大戦中の暗黒の時代に提起したことと同じ問題を、私たち自身にも問いかけていたことに気が付きました。ブレヒトの時代と私たちの時代、二つの時代の関連性は我々を慰めるものであり、不安にさせるものでもありました。

それから18年後の2020年、政治的な分裂が社会の構造を歪める中、ブレヒトの言葉は再び私たちの中に舞い戻り、我々人類は大きな可能性とともに進化を続けながらも、繰り返してしまう種族であるということを改めて認識させてくれました。

そして、パンデミックが起こりました。

当初、この世界的な危機が、私たちの仲間や家族、そして私たち自身の存亡を脅かす「静かな敵」として、人類を団結させるかもしれないという希望を抱きました。しかし悲しいことに、それは私たちを分断し、分離し続ける壁のレンガのひとつとなってしまいました。
今、ブレヒトの言葉がこれまで以上に必要とされているのは明らかです。

この作品は、ブレヒトの詩、歌、物語、戯曲を通して彼の物語を伝えると同時に、ブレヒトがその時代に直面した試練は、現在の我々の時代でも生き続けているということを伝えるものでもあります。ブレヒトの時代と私たちの時代を重ね合わせることは決して難しいことではありませんし、あなたがこれから体験する多くのことと共鳴する忘れがたい何かがあるはずです。

悲しみを乗り越える唯一の道は、悲しみを通り抜けることだと言われています。この作品によって、今続いている道はかつて通りすぎた道であるのだということを、そして、今は暗闇の中にあっても、夜明けが来て、再び太陽は輝くのだ、と思い出していただけることを願っています