孤独な山と、そこに迷いこんだ1羽の鳥の友情を描いたアリス・マクラーレンの物語が、魅力あふれる影絵芝居になりました。アイノ・レフトヴァーラが手がける音楽が、多彩なビジュアル表現とともに作品世界を彩ります。
この作品では、世界でもっとも大切なテーマである「愛」が、子どもたちにも理解しやすい象徴的な表現を通して語られます。孤独に生きる山は、上を飛ぶ小さな鳥の美しい歌声を耳にしたことをきっかけに、大きく変わっていきます。しかし、やがて二人の旅は終わりを迎えます。山とは違い、鳥は永遠に生きることはできないからです。それでも、その鳥が山にもたらした喜びは、決して消えることはありません。
この物語は、子どもと大人が「死」というテーマについて、自然で安心できる形で語り合うためのきっかけを与えてくれます。死は決して子どもたちにとって縁遠いものではありませんが、私たち大人は、ついその話題を避けてしまいがちです。また、この作品は、環境との向き合い方についても、さりげなく思いを巡らせる機会も与えてくれるでしょう。
光なくして影は生まれません。そして、この作品に映し出される影は、喜びと命、そして愛を映し出す、あたたかな光に満ちています。
原作:アリス・マクレラン 翻案・演出・音響:イイダ・ヴァンタヤ
出演:イイダ・ヴァンタヤ
ナレーション:中川玲奈
音楽:アイノ・レフトヴァーラ
技術サポート・映像編集:ヤリ・ウーシタロ
写真:ユッシ・ヴィルックマー
制作:Aura of Puppets
鳥の劇場を訪れるのは今回で4回目となります。この場所に再び戻ってこられることを、大きな喜びであり、光栄に思っています。
私が鳥の劇場のために演出と美術を手がけた最初の作品『オフェリアと影の一座』は、この演劇祭に2度招かれましたが、残念ながら私は同行することができませんでした。それでも、帰国した仲間たちは、鹿野という魅力あふれる山あいの町について、たくさんの素敵な話を聞かせてくれました。
2013年には、ソロ作品『息吹き ~Breathing~』の上演のため、初めて鹿野を訪れました。私の仲間たちの言葉は本当でした。優しく温かい人々に溢れた、なんと魅力的な町でしょう。私はすぐに鹿野が大好きになり、その年のうちにクリスマス公演『クルミわり人形とねずみの王さま』の制作に参加するため再び戻ってきました。その際は、人形制作と影絵シーンの創作を担当しました。
数週間、小さなコテージで暮らしました。11月の風が屋根を吹き飛ばしてしまいそうな家でしたが、フィンランドとはまったく異なる日本の暮らしに少しずつ馴染んでいく時間は、とても貴重なものでした。なかでも、満月の夜、村の温泉に一人で浸かったことは、今でも忘れられない思い出です。
数年後の2019年には、ミラ・ニルハモとともに『全世界を見たいと夢みた男』を携えて再び鹿野を訪れました。その滞在中には京都にも足を延ばし、寺院や紅葉に彩られた庭園、美しい着物をまとった人々の姿を楽しみながら、日本の魅力にさらに触れることができました。
そして今年は、影絵作品『とりを愛したやま』とともに鹿野へ戻ってきます。この作品をお届けできることを、とりわけうれしく思っています。というのも、この作品には、私が日本文化に感じている「静けさ」「自然への敬意」、そして「人生の本質について静かに思索する心」が深く息づいていると感じているからです。
この作品は子どもたちのためにつくられましたが、そのテーマは普遍的であり、あらゆる世代の観客に響くものだと信じています。
私の作品を評価し、これまで何度もこの演劇祭に招いてくださった鳥の劇場、そして芸術監督の中島諒人さんに、心より感謝申し上げます。また、この素晴らしい演劇祭を20年にわたり支え続けてこられた演劇祭・劇場スタッフの皆さまにも、深く感謝いたします。
もちろん、演劇や演劇祭は、それを愛し、物語を愛する観客の皆さんがいてこそ成り立つものです。本日ここにお越しくださった皆さまにも、心から感謝いたします。そして、ぜひ私の作品もご覧いただけたら幸いです。
最後に、未来の演劇の観客である子どもたちにも感謝を伝えたいと思います。私たちの作品が、子どもたちに喜びや驚きを届け、幕が下りたあとも心に残る何かを贈ることができれば、これ以上の幸せはありません。
フィンランドより、皆さまへ心からのご挨拶をお送りします。
鳥の劇場、20周年おめでとうございます。そして、これからも末永く、実り豊かな歩みが続くことを心より願っています。
イイダ・ヴァンタヤ
イイダ・ヴァンタヤ
フィンランド・カーリナを拠点に活動する人形遣い、演出家、ビジュアルアーティスト、舞台美術家。
30年にわたる活動の中で、子どもから大人までを対象とした数多くの人形劇作品を演出し、現在フィンランドで唯一、人形制作を専門に教える講師でもある。
フリーランスのアーティストとして、さまざまなカンパニーと協働し、演出家、劇作家、ビジュアルデザイナー、パフォーマー、人形制作者として幅広く活動している。特に、特別な支援を必要とする人々との活動における人形劇の可能性に強い関心を持つ。知的障害のある人々への支援者資格を取得後、認知症のある人々、脳損傷から回復中の人々、知的障害のある人々、施設で暮らす若者たちを対象としたワークショップを数多く実施している。
舞台美術家としては、2006年にヘルシンキ芸術デザイン大学で舞台美術の修士号を取得。ロヴァニエミ市立劇場、ケミ市立劇場、カヤーニ市立劇場などで舞台美術を手がけてきた。2017年には大道芸劇団「Fauna Humana」を設立し、ビジュアルデザイナーおよびプロデューサーを務めている。
劇作家、ビジュアルデザイナー、演出家として手がけた代表作には、『Observations of Primates』(2019)、『Meeting Places for the Lost』(2017)、『息吹き ~Breathing~』(2016)、『Dreaming in the Palm of Light』(2000)、『Ronia, the Robber’s Daughter』(2024)などがある。
また、作品は展覧会や国際的なイベントでも紹介されており、フィンランド国家賞を受賞した展覧会『The Book of Rooms』(トゥルク、2021年)、『The Birth of Silence』(チルドレンズフェスティバル、ハメーンリンナ)、『Myth, Marionet and Man』(デンマーク・シルケボー)、ヘルシンキ演劇博物館で開催されたフィンランド人形劇100周年記念展などに参加している。トゥルクを拠点とする人形劇ネットワーク「Aura of Puppets」のメンバーであり、その姉妹組織である「Metropolitan Puppets」(ヘルシンキ)の設立にも携わった。これまでに、アメリカ、北欧諸国、エストニア、タンザニア、メキシコ、タイ、日本、韓国での専門家交流や共同制作に参加している。
旅費助成:Suomen Kulttuurirahasto SKR